2006年8月アーカイブ

ふたつのプラネタリウム

涼元@実家で色々雑用&泥縄で仕事な日々であります。
なんだか冥王星界隈が大変なことになっている今日この頃ですが、その名付け親である野尻抱影先生絡みのイベントを図らずも観に行った話を。


東京出張二日目。
町田市立博物館にて、『星空にあこがれて プラネタリウムと天体望遠鏡展』を観ました。
メインはもちろん、プラネタリウム投影。
とはいえ、こちらの博物館にプラネタリウムが常設されているわけではないようで、待っていたのは直径4メートルほどのエアドーム、その中央に移動用小型プ ラネタリム。まさに星空出前状態というか、planetarian初回特典小説で書いた『星の人』の設定そのままです。
観客は身をかがめてドームに入ると、壁の縁にぐるっと体育座りをして並びます。当然壁にもたれかかるのは厳禁。最悪、宇宙が崩壊します。
解説員のお姉さんの声に導かれ、まったりと投影が始まりました。
まずは光量を絞って都会の星空を見せてから……という、お馴染みの導入です。
「十秒間目をつぶってください……はいっ! 目を開けてください」
わっという歓声と共に、ややこぢんまりとしているものの、満天の星が輝き出しました。
投影機はよくあるホームプラネタリウムではなく、まさに博物館用のミニチュア版で、南天も投影できるようです。ただ、当然スペック的に全機能搭載というわけにはいかず、星座のラインなどは、手持ちのポインター的な道具を使って別に投影していました。
解説はごくごくオーソドックスな夏の星座説明。
で、夏休み中の無料投影ですから、当然悪ガキがいます。
中でもちょっと仁義にもとってるだろキミという札付きがそろそろ手に負えなくなった頃。
恐らくは他の家族連れであろう、雷親父さまの一喝が響きました。
悪ガキは沈黙、それから後は投影もスムースにいきました。これもまた、手作り投影ならではのワンシーンです。
投影の最後、それまでは静止していた星像が日周運動を始めました。星座が夏から秋に移ろい、東の空に昴がかかり始めた頃、照明が戻され、投影は終了しました。
こういう手作り感覚の投影もいいものです。高校時代に学校祭で製作したプラネタリウムのことを懐かしく思い出しました。

五藤光学の協賛があったおかげかと思うのですが、展示物の方も素晴らしかったです。
特に目を惹いたのが、重錘式赤道儀。
モーター駆動の自動赤道儀以前、巻き上げた錘が下がっていく力で赤経ウォームギヤを微動して星を追尾するという方式。さすがに実物を見られるとは思ってもいませんでした。
そして、五藤光学製M-1式投影機の各部パーツ展示。
さらに同じく五藤光学製、マクストフ・カセグレン展示。昔の天文ガイドに製品の宣伝が載っていて、それは憧れたものでした。
さらには商売敵のセレストロン鏡筒+ビクセンGPD赤道儀展示。(架台は敢えてマークXにしてほしかった……)

そしてもうひとつの展示主役、野尻抱影先生の愛機、『ロングトム』。
残念ながら架台と鏡筒がばらばらのまま、ガラスケース内の展示でしたが、やはり実物を見られたのは感無量です。鏡筒は木製の格納箱に入ったままだったので すが、その箱が高校の地学部室に転がっていたNikon製8センチ屈折赤道儀の鏡筒運搬箱そっくりだったのが、とても感慨深かったです。


午後からは、池袋サンシャインシティーのプラネタリム満天へ。
番組は『銀河鉄道の夜』、 町田での投影と打って変わって、こちらは全周投影を駆使した完全オート番組。平日の昼間だったのにかなりの盛況ぶりで、上映開始20分前でかなりの人が並 んでいて びっくり。相変わらずお綺麗なコンパニオンのお姉さまに導かれて入ったドーム内では、普段は誰も座らないような投影機の東側横に腰を落ち着けま した。それもまた一興。
番組内容は、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』をそのままなぞるのではなく、天の川を辿っていく銀河鉄道の軌跡から、要所をピックアップしてナレーションと共に 美麗なグラフィックスで魅せるという感じ。あまり余計なことをせずに、ただ美しい映像を楽しんでくださいという趣向で、個人的には好印象でした。
まあとにかく、文字通り全天を使って映されるCGでの星や機関車の美しいこと!
また、全周投影と投影機との連携がよくできていて、継ぎ目なく星像に移り変わるのが見事でした。よほどきちんと作り込まないとできないことだと思います。
途中、お子さん突然号泣→親御さんとともに退場というお馴染みのイベントもありましたが、時間いっぱい充実して楽しめました。
でも、やはりプラネタリム好きの贔屓目で言ってしまうと。
絢爛豪華なフルCGの数々もよかったのですが、いちばん心に残ったのは、コニカミノルタ製インフィニウムγ投影機が全力で星空を投影する中、透き通るような『星めぐりの歌』が流れるEDスタッフクレジットのように思いました。

素朴で賑やかな町田での投影と壮麗で快適な池袋での投影、どちらがいいかと問われれば、甲乙付けがたいと答えるしかないところが、プラネタリウム鑑賞の面白いところだなあと。


町田市立博物館の投影の方は、今日明日の追加が決まったようです。恐らく混むだろうなあと思いますが、お薦めです。ちなみに町田市には、現役のデパート屋上プラネタリウム館も存在します。
池袋満天の『銀河鉄道の夜』の方は、盛況のため(拍手!)上映延長したようですので、こちらもぜひ。

時をかける少女

涼元@東京某所のホテルのロビーからです。(ロビーにしかネット接続環境がない……)

打ち合わせの合間を見計らい、時をかける少女を観ました。
感想としては、大変よかったです。上質の青春もの、そして最上級のデートムービーという感じでありました。アニメ映画、オタク映画、SF映画というイメー ジだけで敬遠している向きは、首根っこひっつかんででも映画館に放り込んで2時間監禁してやりたいぐらいです、はい。

それはそれとして。
本編上映開始20分後ぐらいから、叫びたくて叫びたくてしょうがないことがありまして、もうホントに辛抱たまらないので、この場を借りて吐露させていただきたく思います。極度のネタバレなので、以下既に映画を観たという方だけCtrl+Aで反転してください。

呑気にプリン食ってないでとっとと自転車のブレーキ直せっ! それ絶対伏線だからっ! 今のうちに潰しとかないと後々大変なことになるからっ!!!

(土蔵から絶叫するノスタル爺のテンションで)
涼元@明日から東京行きです。
また性懲りもなく病み上がりなので、ちょーっと不安ではあるのですが。
さて、今回はplanetarianがらみのことなどを、つらつらと。


●まずはplanetarianオリジナルサウンドトラック、おかげさまで上々の販売数のようで、夏コミ会場でお買い上げくださった方、まことにありがとうございます。また、イラストブックに参加していただいた絵師の方々、お忙しいところ作品を寄せていただきありがとうございました。不肖涼元からもお礼申しあげます、はい。
このサントラはおいおいビジュアルアーツの公式通販でも発売されるかと思いますが、限定的ながら恐らくイラストブックも附けられるのではなかろうかと思わ れます。涼元の希望的観測でアレなのですが、こちらにもお問い合わせをいただいているので、ご参考になればと。

planetarian ~ちいさなほしのゆめ~ PS2版、 いよいよ8月24日から発売開始であります。PC版の時同様、初回生産分には涼元悠一書き下ろし小説がついているのですが……先日、これが涼元宛に100 冊どーんと送られてきてビックリ。PC版の時に自分の分がない~とか愚痴をこぼしたせいで、プロトタイプの多部田氏が気を回してくれたのではないかと思わ れますが。段ボール箱4個口で、戸口まで台車に乗ってきましたぜ。まさに売るほどある状態。一瞬社長をイジリすぎた廉で、VAのギャラが現物払いになった のかと思いました。

●PS2版後書きにかえて1 ボイスとテキストについて
普通、ボイス付きのノベルゲームを作成する場合、シナリオがある程度出来上がってから声優の選択をするものなのですが……planetarianの場合、ちょっと違っていました。
まずオープニングだけのパイロット版が作成され、この時点で『プラネタリウムはいかがでしょう?』という、物語の中核となるべき一連の台詞は既に収録されていました。
もちろん、ヒロインほしのゆめみの声は、この時からすずきけいこさまです。
ただ、ダウンロード版時点ではボイス付きは難しいというのは開発当初からわかっていましたから、シナリオとしては最低限のボイスでも、最大限演出として活用する方向で執筆したつもりではあります。
最初にいただいた声の欠片があり、そこからキャラが膨らみ、シナリオが起こされ、全ての声が当て嵌められ、さらにそこから磨きをかけるという、希有な製作形態によりもたらされたのが、planetarianという作品です。
これは、プラネタリウム番組そのものが、投影機が映し出す星空と解説員さまの声により成り立っているという事実からすれば、まことに理にかなったことだったなあと、手前味噌ながら思っています。

ボイス付きのplanetarianでは、ボイスなしのヴァージョンに比べて、テキスト自体にも多少手を加えています。基本的に涼元は、たとえ画面上での 状況や立ち絵の演技と重複しても、地書きは積極的に書いていくべきだという考え方なのですが、planetarianではじめて、その原則を積極的に抑え ることになりました。
ボイスが付いたことにより、声による演技そのものが文字通り全てを『言い表している』ように感じたので、地書きによる説明をカットしたところがあります。
また、ボイスが付いたことによって、台詞の意図するところが過度に『饒舌』になり、熟慮の結果、台詞自体をボイスと共にカットした箇所もあります。

自分としては、まさに『得難い経験』でした。
もの書きのはしくれとして、自分が一度完成させたテキストをそういう理由で直すことがあるなんて、正直思ってもいませんでしたから。

これはもちろん、すずきけいこさまの演技の正確さと素晴らしさから産み出された、ある意味『嬉しい誤算』なのですが……ノベルゲームという複合表現形式が 持つポテンシャルの高さと可能性そのものを目の当たりにした思いでした。同時に、まだまだ自分は、このメディアの神髄までは達していないんだなあと、 ちょっぴり落ち込んだりもしましたが。

ともあれ、大年増状態からゲーム業界に潜り込ませていただいた自分の一成果のまとめとして、planetarianは自分にとっても忘れられない作品であ り、製作に参加してくれたビジュアルアーツスタッフ、素晴らしいキャラデザ/メカデザと共に、凝りすぎな立ち絵差分をうんとこさと描いていただいた原画担 当の駒都えーじ先生、そしてボイス担当のすずきけいこさまには、本当に幾重にも感謝しております。
またいつか、どこかで一緒にお仕事できる日を楽しみにしております、はい。


●ボイスがらみの話が続いたので、おまけにもう少し。
シナリオライターの立場から言うと、声優さんのお仕事というのはかーなり憧れるところがあります。なんというか、こっちが草食動物ならあっちは肉食動物、 こっちが農耕民族ならあっちは狩猟民族、という感じで。やり直しがきかない一発勝負の世界に生きておられる方々は、その才気や技術と共に、強烈な個性をお 持ちの場合が多いように思います。
以下、当たり障りのないところから少しだけ。

AIRの声録りをしていた頃、いつも通り開発室でキーボードを打っていて、ふと後ろを振り返ると、かわいい女の子がいました。ひ~らひらのワンピースに浮世離れしたツインテール、入り口のテーブルに積んであるAIRグッズを、なぜか熱心に漁っています。
どう見ても危ない系の方です。開発室に入り込んじゃっています。
『目を合わせちゃダメだ、気づかない振りをするんだっ』と自分に言い聞かせ、脂汗を垂らしながらキーボードに戻ろうとすると、その女の子はにっこり笑って一言、
「田村ゆかりですー」

そんなこんなの愉快なご登場でしたが、演技の的確さ、お声の素晴らしさと言ったらそりゃもう筆舌に尽くしがたいものがありました。声録り休憩中のエピソードもあるんですが、面白すぎて色々支障があるので自粛しておきます。

東京のとあるスタジオでは、永井一郎先生にお声をいただきました。平安時代に実在した人物がモデルの高僧という設定なのですが、ブースに座って台本を開くなり、全てのセリフをまったく淀みなく一発で喋り切った後、そのキャラの声音のままで一言、
「さあ、始めましょうか」
……いえもう、今のでお腹いっぱいです、至福の時でした、お疲れさまでした~という感じでした。(もちろんその後にちゃんと収録しましたが)
この時は、丘野塔也氏が途中からヘルプに来てくれたのですが、「どうして録音スタジオでNHKのラジオドラマ流してるのかと思いました」と言ってました。それほどのクオリティー。

そして前出すずきけいこさま。
planetarian声録り時、「えーと、プラネタリウムの解説員って設定なんですけど」と説明するが早いか、
「本日は当館にお越しいただき、まことにありがとうございます……」
間も抑揚も完璧な、マジプラネタリウム解説員喋り。
他にも、ちょっぴりやっていただいたデパートアナウンスが本物もびっくり……というかむしろまんま本物で、その辺りはゆめみのボイスの喋り分けにも見事反映されています。
でも、なにより度肝を抜かれたのは……
「これ、フルボイスにしましょうよ~。絶対いいですよーほらこんな感じで。『だって…おいていけないよ、ゆめみちゃんをおいてくなんてっ………』(以下略)」
……台本を見もせずに、端役キャラまで感情移入全開で披露してくれました。


……どうしてそんなことができますかあなたがた? という感じです。
基本農耕民族で基本小度胸で小さなことからコツコツとが信条なもの書き族としては、もう『人種が違う』としか言いようがありませんです、はい。


ではでは、今回はこの辺で。

この夏東京近辺で観たいものリスト涼元版

えー涼元です。
仕事関連上京スケジューリング作業をしていたら、この夏観たいものリストができている罠。
以下、やっつけ調べのため、微妙に不正確かもしれませんが。


銀座INAXギャラリー 小さな骨の動物園 展
8月19日まで ※日祝及び8月12日~17日は休み
骨だらけ~。
前回の上京で時間がなくて行けなかったので、リベンジしたいところ。


目黒雅叙園 百段階段×黒澤明展
8月13日まで
正直、黒澤明の絵コンテ云々はまあどちらでもいいんですが、百段階段は見たい……
でももう間に合わないなあ。


東京都庭園美術館 旧朝香宮邸のアール・デコ
10月1日まで 第二第四水曜休館
庭園美術館は建物が素晴らしすぎて、よほどの展示物じゃないと負けるという諸刃の剣。
『会期中は特別企画として、限定エリアでの館内撮影が可能です』というのがミソ。基本撮影禁止なので、この機会を待ち望んでいた人も多いかと。


町田市立博物館 星空にあこがれて -プラネタリウムと天体望遠鏡-
8月31日まで 月曜休館
その筋の天文ファンの間では有名なロング・トムの展示が素晴らしい。
あと、プラネタリウム解体SHOWがとってもとっても観たいんですが、日程的に無理っぽい……ちなみに、8月19日と27日です。


山梨県立科学館 プラネタリウム 戦場に輝くベガ - 約束の星を見上げて
9月3日まで 月曜休館 土日祝日10:00~
ちょっと内容聞いただけで泣いちゃいそうになるような、大変よさげな番組。
『銀河』が夜空のあれじゃなくて、P1Y1(誉)かP1Y2(火星)のことなんですぜ、お客さん。
でも、いくらなんでも山梨は遠すぎる……


サンシャインスターライトドーム満天(池袋) 銀河鉄道の夜
11月12日まで
以前の投影時に予告編は見たんですが、映像的にかなり期待できそうな感じ。
オススメ対象で、カップル★★★なのが大変気になりますが……


あからさまに上京とは関係ないものも混じってますが、まあこんな感じです。プラネタリウム絡みの情報は某SNS某所で仕入れさせてもらいました。この手のことが鮮度よく上がっているので大変ありがたいっす。

プラネタリウムは子供向けと思われがちですが、最近では大人が見ても充分に鑑賞に耐えうる番組も増えてきているようです。科学啓蒙や星座占いの延長ではなく、人間と星との関わり合いそのものが主題になるような物語がもっと増えたらなあと思います。
『銀河鉄道の夜』も、山梨県立科学館の番組もそうですが、生死の狭間にある者にとって、星は文字通り標(しるべ)であるわけですから。

 この瞬間だった、彼の頭上に当って、暴風雨の切れ目に、魚梁の中の命取りの餌のように、二、三の星が輝いた。
 彼にもはっきりそれが陥穽だとはわかった。人はよく、穴の奥に星を三つほど見つけ、これに向かって上って行くが、やがて降りられなくなって、むなしく星を睨み続けるはめにおちいったりする……。
 そうは思いながらも、光明に対する彼の渇仰がいかにも激しかったので、彼は思わず上がって行ってしまった。

夜間飛行/サン=テグジュペリ 堀口大学訳 より
えー涼元です。
ほとんど机の前で書いてばかりなので、いい感じで肥え太っている今日この頃です。栄養バランスが悪いのか、かなりひどい口内炎までできてしまいました。仕方なく、一週間ほどゼリーとスープだけで過ごしてみたのですが、体重は全く減りません。いやあん。

ちょっとだけお仕事情報を。

●まず、ソフトバンクGA文庫さまから刊行予定の『ナハトイェーガー』ですが、GA GRAPHICにて壁紙第三弾が公開されております。見出しにそして新展開と書いてあったので、「えええっ、聞いてないけどどんな新展開がっ!?」と慌ててクリックしたのはここだけのヒミツです。
壁紙先行配布はこの三枚で一区切りなのですが、絵描きさま側と細かく連携を取ることができ、かーなり面白い仕事でした。毎週完成の後に涼元がテキストをつけるという流れだったのですが、文章を考えるのがとても楽しかったです。三枚すべてご覧の方は、一美先生の手による服飾やディティール描写の細やかさはもちろん、左上の時計にも注目していただければと。時刻や月齢表示が、きちんと場面に連動しているという凝りようです。時計のモデルもマニアックなことになっています。

『ナハトイェーガー』に関しましては、この先もちょくちょく情報をお伝えできればと思っておりますので、どうぞよろしくお願いします。


●華麗にスルーしようと思ってたら、問い合わせをいただいてしまったので……
実はすでに一冊、とある本が刊行されているのですが……書いた本人かーなり恥ずかしいので、興味がおありの方はAmazonあたりで検索していただければと。ちなみに、シナリオライター志望の方向けの(つもりの)本であります。


ではでは。そして新展開~。(マイブームな挨拶)
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