2011年7月アーカイブ

青木繁展と先斗町アトランティス

7月2日。
午後から阪急で京都へ。
河原町駅から地上に出たとたん、むっと重く湿った風に包まれた。
京都特有の空気と相まって、梅雨の谷底を泳いでいるよう。
鴨川沿いから祇園を抜けて、京都国立近代美術館まで歩いた。今年二度目の訪問。前回のパウル・クレー展の展示形態が性に合わなかったので、そのリベンジも兼ねて。
今回の目当ては青木繁展
二〇世紀初頭の日本画壇に颯爽と現れ、野心家の天才と呼ばれ、若くして夭逝した画家。
多くはない作品の中、見てみたかったのはふたつ。

まずは『わだつみのいろこの宮』。
入場した正面に誇らしげに飾ってあった。
第一印象、思っていたより大きい。
『整った絵』だと思った。
構図といい、色合いといい、人物といい、ディティールといい、雰囲気といい、抜群の完成度、素晴らしい出来であることは一目でわかる。
ただ…
綺麗なモデルさんに神話のワンシーンを演じてもらい、それを完璧に絵に落とし込んだ、という感じで、どこか印象が上滑りしていく。それでも惹きつけられるものはあるけれど、それはたぶん画家の技量や矜持や理想にであって……少なくとも、この絵そのものの『物語』や『世界』に魅力を感じているわけじゃないんだなあなどと思ってしまう。それでも30分ぐらいは見惚れてしまったのは事実。

そしてもうひとつの目当て、『海の幸』。
入ってすぐの展示室に、こちらも何の衒いもなく展示されていた。
最初の印象は、『わだつみのいろこの宮』と真逆。 つまり、「これ、こんなに小さかったのか……」
大きさは知っていたはずなのに、壁画のように大きな絵だと勝手に思っていた。
でも、描かれた主題は『大きな絵』と呼ぶにふさわしい。

巨大な鮫を肩に担いで、浜辺を誇らしげに行進していく、赤銅色に焼けた裸の漁師たち。 痩せた狼のような肉体、画面を斜めに分断する銛の穂先。
とにかく鮮烈。一度見たら二度と忘れないインパクト。
存分に見惚れまくってから、仔細を眺めだすと、おやっと思う。
どう見ても未完成。
絵の左半分と右半分でタッチが違う。漁師たちの顔も、きちんと描き込まれている者と、適当にぼやかしてある者のギャップが激しい。オマケに志村けんのバカ殿様みたいな、不自然に白くてひょっとこ顔の、あからさまに漁師じゃないのがいちばん目立つところに混じっていたりする。鮫も生物学的になんかヘンな気がする。
要はツッコミどころ満載。でも、この絵がちゃんと『完成』していたら、見る者にこれほどのインパクトをもたらしただろうか。
粗雑や遊びさえもがインパクトに、そして武器になっている。むう……

『わだつみのいろこの宮』と『海の幸』、どちらが『神話的』か? そう訊かれれば、全く迷いなく『海の幸』と答える。聖書とか日本書紀とかの、所詮人が造った神という創作を超越した、はだかの人間の営みが最初から持っている神性、確かにそれを感じられた。
結局、こちらも30分ほど立ちつくして眺めてしまった。
満足。
でも、主題そのもので完成度を凌駕できるという実例を目の当たりにした思いで、ちょっと複雑でもあった。

その後、常設展を一通り鑑賞して、美術館を辞す。
空には晴れ間も現れ、太陽が傾いたせいもあってか多少はすごしやすくなった。
いつも通り知恩院から円山公園、八坂、二寧坂、五条大橋と散策、満を持して先斗町に突入。
本日三つ目の本命、バーアトランティス

夏期は川床で洋酒が飲めるという、大変に希有なオーセンティックバー。
場所柄もあってか観光客が多く、正直ちょっとお高い店なれど、その分をちゃんと酒の味とホスピタリティにかけてくれている良い店。モルトも各種ありカクテルもなかなかレベルが高い。
勢いあまって開店3分前に着いてしまい、店の前でちょっと待ってから入店。若い店長さんに迎えていただく。せいぜい2ヶ月に1度程度、大阪からやってくる客のことをちゃんと覚えてくれていて、ちょっと嬉しい。
いちばん端の、鴨川に面した特等席に座り、まずは生ビールから。ピルスナーグラスに注がれたプレミアムモルツ、このロケーションで不味かろうはずもなく、2分で飲み干す。

ギネスとフィッシュアンドチップス@先斗町アトランティス

お次はギネスとフィッシュアンドチップス。二種類の魚とふっくらした衣でボリュームたっぷり。空きっ腹には嬉しい。鴨川名物等間隔カップル配置を眺めつつ、こっちはひたすら腹ごしらえとアルコール摂取に精を出す。河原を通っていく人の「あそこバーになってる!」という驚きの声が聞こえ、ちょっぴり優越感。まあ、俺の手柄じゃないけれど。

三杯目、いつもならいい感じに温まったギネスをチェイサーにモルトを頼むところ、今日はオリジナルカクテルの先斗町クーラーを所望。ほどよく甘めの炭酸が心地良い。

マスカットリキュールのトニック割り@先斗町アトランティス

さらにもう一杯、ボトルが目についたマスカットリキュールの飲み方を訊いたところ、リキュール自体の完成度が高いからということで、シンプルにトニックウォーターで割ってもらった。たっぷり絞ったレモンの効用か思ったほど甘くベタつかず、これも飲みやすい。

〆にモヒート、夏の屋外なら鉄板の味。
滞在1時間半で五杯、いい感じに出来上がった。
ここで会計してもらい、薄暮に賑わう先斗町通りを河原町駅までのんびりと歩いた。
海の画家である青木繁作品を愛でた後、アトランティスで飲むってのは、ちょっと出来過ぎだったなあと思いつつ。

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