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三十ウン年越しの聖地巡礼


2024年、秋のとある吉日、午前10時頃、南部駅前に降り立った。

南部駅前

本来なら五月末に訪れる予定だったのが、色々あって今日になってしまった。
ほどよく日が射し、ほどよくいい天気。とりあえず、駅前をぶらぶらと歩く。よさげな飲み屋もあればコンビニも喫茶店もある、コンパクトで住みやすそうな町。


海岸沿いに出る。広い砂浜、波打ち際では女子高生と思しきグループが戯れ、道の脇では曼珠沙華が咲いている。

南部駅前道路看板 左白浜右和歌山

南部駅近くの砂浜

南部駅近くの道沿いに咲く曼珠沙華

曼珠沙華のアップ

全く知らない土地の情景に触れ、久しく忘れていた旅情がいよいよ高まるのを感じる。そう、今回の目的地はここではなく、この町のすぐ隣にこそある……

つつがなく時間を潰し、そして時が来た。   

南部駅脇のパン屋さんベーカリーイングランド前景

駅前のパン屋さんで昼食用のパンを買い、ホームに戻る。

南部駅ホームに着いた普通御坊行き

ほどなく列車が来た。二両編成のワンマン車。もちろん鈍行、鈍行でなければならない。
最前のドアから乗り、整理券を取ってベンチシートに座る。

そう、この旅本来の目的地。それは──

 岩代駅ホーム

岩代駅ホームの駅名標

『紀勢本線各駅停車南部の次の岩代駅』、である。

岩代駅のホーム 木のベンチが二つ並んでいる

自分ひとりが電車を降りると、そこでは『人気のないホームの古いベンチ』が待っていた。
ぶっちゃけそこまで古くはないけれど、いきなりテンションが上がる。無人駅になったことは知っていたので、最悪、ホーム上の設備は撤去されていることも覚悟していた。

南部駅前で買ったパン三種。メイプルメロンパン、マヨコーン、唐揚げパン。

まずはベンチに座り、買っておいたパンを食べて腹ごしらえする。(ちなみにこの3個で確か370円税込。物価がバグってるにも程がある。そして美味しい)


人心地ついた後、ここに来たからには当然やらなければならない行為を実行する。
おもむろにイヤフォンを装着し、スマートフォンに入っているとある曲を再生した。

スマートフォンの音楽再生画面 テングサの歌/谷山浩子

……わけがわからないよという方も多いと思うので、遅蒔きながら説明を。

テングサの歌、シンガーソングライター谷山浩子が作詞作曲した歌唱曲。
自分がはじめて聴いたのは、たぶんラジオ番組、『谷山浩子のニャンニャンしてね』か『谷山浩子のオールナイトニッポン』の番組内だったと思う。つまり1984年前後。
かわいい曲調に反したちょっとファンタジックというか、ぶっちゃけて言えばグロテスクな歌詞は、一聴して深く印象に残った。その冒頭はこんな風に始まる。

『紀勢本線 各駅停車 南部の次の岩代駅の
ひと気のないホームの古いベンチの上にあたしはいるの』

それからずっと、岩代駅に行ってみたい。しかも南部駅から各駅停車に乗って行きたい。そして無人のホームのベンチに座ってフワフワしてみたいと思っていた。

三十有余年の時を経て、ようやく念願を叶えることができた。


3ループ聴いた後、とりあえず満足した。
それからホームと駅舎、駅前をひたすら撮影した。(途中下車扱いなので改札内外を行き来し放題。(まあ無人駅だから切符がなくてもフツーに入りたい放題ではあるけれど)

JR岩代駅舎を正面口から

年季は入っているものの最低限の手入れはされているコンパクトな駅舎。

岩代駅舎の前の小さなお稲荷さんの鳥居

脇にあったお稲荷様の祠で、無事ここにたどり着けたことを感謝した。

蔦に埋もれた岩代駅の駅名標と朽ちたビニールハウス

そしてホームに戻り、蔦に囲まれた駅名標を念入りに撮影。

蔦の中に立つ岩代駅の錆びた駅名標

そこには確かに、人間の手を離れ自然に帰ろうとしている人工物の儚さと美しさがあった。
(※すみません、色合いとかそれっぽく後加工しました)

これでやるべきことはやった。が、帰りの電車が来るまではあと1時間ある。
駅周辺を散策することもできたが、敢えてベンチに戻る。
そう、むしろここからが今回の核心だ。
このベンチに座ったからには、『何万年でも何億年でもずっとこうしてぼんやり』するのが筋だからだ。

そんなわけで、誰もいないホームで全力でぼんやりする。
何もなさすぎて退屈するかと思ったらさにあらず。『汽車の時間に汽車が来ない』『道は見えるが車は通らず』どころか、ちょっと離れた道路では、わりとフツーに車が行き交っている。そしてわりと頻繁に汽車(電車だけど)も来る。汽車の時間に正確に来ては数秒で通り過ぎていく。

岩代駅を通過する特急くろしお前面(287系)

岩代駅を通過する特急くろしお前面(283系オーシャンアロー)

岩代駅を通過する特急くろしお後面(287系)

それでも、時々は静寂が訪れる。
気がつけば、口笛を吹いていた。
扉、日だまりの少女、カントリーガール、夕焼けリンゴ……
今、この瞬間に流れるべき曲たちが、自然と口をついて流れる。
はじめて谷山浩子を知って数十年が経っている。あれから様々なアーティストの、たくさんの曲に触れてきたけれど、自分の奥底に根付いているものはそう簡単には色褪せないことを再認識できた。

正午を回った頃、少し風が強くなり、空気に秋らしい気配が混じりはじめた。
綺麗に清掃されたトイレに寄って、手早く帰り支度をした。  
数分後、定刻通りに普通御坊行きが来た。
電車に乗る前にもう一度振り返った。

岩代駅の木のベンチひとつ

そして、思った。
あのベンチには今も、十代の頃の自分が座っている。
今の自分は電車を乗り継いで、夜の街で一杯ひかっけて、きっといい気分で家に帰って、この旅行の一部始終をそれっぽくまとめてブログに載せ、いい思い出にするのだろう。
そうしてきっと……あのベンチに戻ることは、もうないのだろう、と。

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その後&余談。

車窓で気になったものなど。

きのくに線車両内からの車窓。海と青空。 
車両の窓が広い上にベンチシートなので、所によっては向こうに海しか見えず、千と千尋の神隠し気分が味わえた。

きのくに線車両内からの車窓。海沿いに曲がっていく。

岩代駅前後は線路がちょうど海沿いで、まさに紀伊半島に添って走ってる感が強くてよかった。

きのくに線車両内からの車窓。石油プラントのタンク類。

初島駅近くの石油プラント。山合いの風景をぼーっと眺めていたらいきなり来たので度肝を抜かれた。後で調べたら、『2023年10月をもって石油精製機能を停止しました』とのこと。

無事新大阪まで戻り、いつもの店で聖地巡礼の成功祝い。(予定調和)

新大阪のいつもの居酒屋のカウンター。越の鷹 純米イエローホークの一升瓶とグラス。 
越の鷹 純米イエローホーク。ぎゅっとした、でもやさしいお味。

新大阪のいつもの居酒屋のカウンター。俎皿の上の刺身。

お造り盛り合わせ抜粋。鯖きずし、鮪脳天、そして抜群に美味かった鰤、見えない端に鯛。

新大阪のいつもの居酒屋のカウンター。小瓶のスパークリングワインとフルートグラス、小椀の中にいちじくのコンポートとバニラアイスクリーム、スプーン。

デザートにいちじくのコンポートとバニラアイスをいつものたこシャン(スパークリングワイン)で。

親方に本日旅行の旨を得意げに話す。音楽の嗜好も違うし、当然通じるわけはないんだけど、「それ、駅前でテングサは売ってませんの?」と合わせてくれたのは嬉しかった。うん、たしかにそれはそう。俺なら絶対買ってベンチに置いて写真撮るし。生の天草が難しいなら寒天でも可。

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総括。
長年の宿願すぎたせいで、逆に今更行っても義務として喜ぶだけになっちゃうだけなんじゃないかなあ……正直そう思ってもいたけれど、実際には自分でも意外なほど嬉しかったし、興奮したし、達成した充足感もスゴかった。
やりたいことはいつやっても価値がある。
改めてそう気づけたのが、いちばんの収穫だったのかもしれない。
あと、谷山浩子の楽曲は絶望的に旅行中に合わないのを知ったことも。



註01:帰りの列車内では谷山浩子ではなく鈴木祥子を聴いてたのはここだけのヒミツ。だって浩子さんの曲、暗くした部屋で独りで聴くなら最高だけど旅情はほぼ皆無なんだもん。

註02:この記事本文中ではどういう趣旨の歌詞なのかは敢えてボカし目にしたので、ちょっとでも気になる方はぜひぜひ原曲『テングサの歌』御一聴を。

 

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蛇足。
いい感じの酔い加減で自宅に帰り着いた後、改めて腹ごしらえをした。

自宅、箱膳の蓋を盆にしてカップ麺(青春という名のラーメン 胸さわぎでかミート)と箸を乗せている。

カップラーメン(青春という名のラーメン 胸さわぎでかミート)の麺と具のアップ。

復刻成った青春という名のラーメン、これもまた、自分にとってはまさに青春の味。記憶の中では麺もかやくももっとチープだったけれど、美味しくて驚いた。そしてめっちゃ味が濃い。それはきっと、自分側の変化も大きいのだろうけど。ヒント:加齢)

けものフレンズぱびりおんの思い出

2021年06月30日15:00 けものフレンズぱびりおんサービス終了。

自分史上初めて、サービスイン当日からサービス終了まで、ほとんど毎日遊んでいたソーシャルゲームだった。
確たるストーリーがあるでもなく、課金要素すらゆるゆる。あそびどうぐをテキトーに置いておくとフレンズが遊びに来てくれて、お礼に木の棒とか布の切れ端とかを置いていってくれるという、ぶっちゃけねこあつめライクなシステムだったけど、リアルタイムで考えたり操作する必要がないのが自分にはすごく合っていた。(なので、あとから追加されたアトラクションの方はあまり熱心にやらなかったけど)

けもフレ好きを抜きにしても、キャラのデフォルメやめずらしい行動のアクションが可愛らしかった。この仕草は原作(元になっている動物)のどの辺りから採ってるんだろう?と考えるのも楽しかったし、実際Webで調べて「なるほど!」と感心したりもした。いい感じのシーンに出会ったらスクリーンショットを撮りまくった。今もちょっとした暇があれば、指がスマホのぱびりおんアイコンを押してしまうぐらい。

サービス終了後はオフライン版として、図鑑とけもトークが閲覧できるだけになってしまったけど、ぱびりおんは今もどこかに存在して、自分ができなくなったジャパリまんじゅうの補充やあそびどうぐの交換は、馴染みのラッキービーストたちが肩代わりしてくれているのだと思っている。

以下、ぱびりおんでの自分のスクリーンショットをつらつらと。正直枚数が多すぎて吟味するのも難しいので、目についたのを片っ端から貼っていきます。(注意!画像たくさん&すっごい縦に長いです)

 

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記念すべきサービスイン初日のスクリーンショット。
表示オフすら覚えていない頃。

その後はいい感じのツーショット狙いが続く。自分にとってぱびりおんとは、仲良しペアをスクリーンショットに納めるゲームだったのかもしれない。それがもうフツーに楽しく、全く飽きることはなかった。

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場所的にはこうざんの喫茶店が好き。

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お気に入りのあそびどうぐは雛壇。なぜなら大変カップルっぽいから。

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狙っているペアがなかなか揃わないのもまた一興だった。

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「アライさーん」「なのだー!」

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「アライさーん」

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「なのだー!」

まあ、もtろんフツーのツーショットも押さえてます。アラフェネは至高。

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レアキャラや似たもの同士も来れば嬉しかった。

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もちろん、わちゃわちゃ集まってるのも楽しい。

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来てくれていちばん嬉しかったのは、何と言ってもオイナリサマ。

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超偶然で来てはくれたけど、その後ずーっとお目にかかれず、

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根性でSSプリンターを回して、ついにコンコンキッチンを引いた。
自分の全課金はこのために費やされたといって過言ではない。

で、いなり寿司が作れるようになったとたんガンガン来てくれるように。
霊験あらたか。
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このひょいって横から顔を出すアクションが好き。

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あと、スカイフィッシュちゃん。
ひとりだけ全く違うシステムで出現するので、見つけた時の嬉しさもひとしお。
あと、喋り方がかわいい。何言ってるかサッパリわからないけど。

心残りなのは、あそびどうぐ配置であんまり無茶ができなかったこと。
頑固な居酒屋店主のごとく、ついつい常連さんも一見さんも楽しめそうなものを
吟味して置いてしまう。

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クリスマススペシャルとか、

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謎の宇宙ジオラマとか。
他にもオールまわしぐるまとか、オールこたつとかやりたかったけど、
閉店が決まって客に逆ギレしてる店主状態なので 自粛。

そして迎えた最終日。エリアをどこにするかは迷ったけど、毎日必ずローテしてたので、
その流れのままゆきやまにした。

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バリバリいなり寿司をつくるオイナリサマと、見届けに来たその眷属。そして集まってくれた白っぽいみなさん。

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最後のスクリーンショット。そして……

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サービス終了。

開発や運営に関わった方々、本当にありがとうございました。

けものフレンズ関連のコンテンツはこれからも続いてくのだろうけど、ぱびりおんのエッセンスは色々なところに残っていく。きっと自分でも知らないうちに、ぱびりおんとは何度も再会する。そうやって『いいもの』はずっと残っていくのだと思う。(いや、リバイバルコラボとか、むしろしれっと復活してもオッケー)

校庭の桜

今年の桜はまだ心の準備ができる前に咲き始め、花見頃の週末をスルーして粘って満開になった挙げ句に、嵐で一日のうちに散るという大波乱。それでも、毎年必ずチェックしている某小学校の桜は、それは見事に咲いていました。

校庭の桜

だれもいない校庭の隅、逆上がりの補助台と桜のツーショット。
薄曇りの白い空に、枝の先から煙って溶けてしまいそう。

桜と時計

「君、今年も綺麗だけど、少しばかり早いねえ」
「ありがとうございます。でも、こればっかりは自分の思い通りになりませんし」
「ちょうど休みに重なってしまって、残念だね」
「ええ、新しい子たちにも見てもらいたいなあ…なんとかなりませんかね?」
「なんとかしてあげたいけれど、私は時を示すだけで、動かすことはできないからなあ」

薄日の桜

やがて薄日が射して、かすかに香りが立って。
そんな感じにはじまった春を、近況代わりに。

午後早く、書きものを終えて外出。
今の貸屋に引っ越してちょうど4周年になるので、ちょっとしたお祝いに酒の肴でも見繕おうと、竹見台へ向かう。
春みたいに暖かな陽気。途中通った公園では、子供も大人もダウンジャケットやコートを脱いで、フリスビーに興じたり、ジャングルジムによじ登ったりしている。
歩調を落とし、目に留まったものをぱちぱちデジカメに収めながら進む。

山茶花咲きすぎ
なにもそこまでというぐらいに咲いた山茶花や、

マンションに帰っていく猫
フツーにマンションのエントランスに入っていく猫、

いつもの肉屋さんで鶏のたたき、コンビニで缶ビールを買い、帰宅。
準備もそこそこに、早速飲み始める。

鶏のたたき、自作野菜チップス、ビール(サッポロ蔵出し生)、日本酒(喜久酔)
暖房いらずどころか、サッシを開け放したくなるような陽射し。
「こういうのも絵になるなあ」などと思いつつ、酒をビールから日本酒にスイッチ。
どういう思考の流れか、気がついたら『漫画の中の酒飲みシーン』というテーマで、書棚をひっくり返していた。

漫画も肴に
料理漫画や蘊蓄系漫画はそのまんまでつまらないので除外して、なるべくひねったところをと思えど、これがなかなか難しい。

まずは『陰陽師』岡野玲子(原作:夢枕貘)

平安時代を舞台にした全13巻の大作……だけど、最初の方はスルスル読める。漫画版は後ろに行けば行くほど厚く、難解になっていく。個人的には前半の原作に忠実な話が好き。基本的に『安倍晴明の屋敷に源博雅が訪ねてきて、まずは酒を酌み交わす』ところからはじまるので、当然酒飲みシーンが多い。さりとて相手が安倍晴明となったら、酔えるのか酔えないのか、源博雅ならずとも心許ない。楽しそうではあるけれど。

「今日は酒を飲みに来たのではないぞ」
「酒をこばみに来たわけでもあるまい」
「おぬしは口がうまいな」
「この酒はもっとうまい」

こんな洒脱な会話ができたらなあ。数ある酒盛りシーンの中でも、特に3巻『黒川主』が好き。名人鵜匠が捕った最高級天然鴨川鮎を肴に一杯ですもん。しかも1000年前の。

次に『阿房列車』一條裕子(原作:内田百閒)
最古の乗り鉄ことご存じ内田百閒の伝説的エッセイを、異才一條裕子が忠実に漫画化。百閒先生と旅の相棒ヒマラヤ山系氏の絶妙なそっくりっぷりと、基本小説のテキストのみから話を構築してあるのが特長。一條裕子先生は『わさび』連載のころから大ファンなれど、阿房列車はまさに白眉だと思う。
これもまた、基本『電車に乗って座席で持ち込みの弁当を肴に酒を飲み、行った先の旅館で酒盛りし、帰りの食堂車で駅に着くまで飲み倒す』ので、至るところ酒飲みシーンだらけ。でもそこは百閒先生、どんな珍味美酒に会っても、「美味かった」などと直球には言わないところが逆にツンデレで楽しい。
どの回のどの飲みも好きだけど、日本酒を魔法瓶で燗付けして車内に持ち込み、佃煮と握り飯で晩酌ってのはいつか自分でもやってみたいと思っている。あと、機会があれば八代には一度行ってみたい。百閒先生ご贔屓の松浜軒は、既に宿屋として営業はしていないそうだけど。

時代が昭和から明治に戻り、『坊ちゃんの時代』谷口ジロー/関川夏央
帝大講師から小説家として独り立ちせんと決意する頃の夏目漱石が主人公。緻密な考証と精密な描画に圧倒されつつも、エネルギッシュで人間味ある時代のうねり、遠ざかる『江戸』への郷愁……もちろん、あの猫も出てくるし。それはともかく、漱石先生は基本外では飲まない方が世のためだと思う。
第九章『春風一陣』内、漱石宅に彼を慕う書生たちが集い、勢い酒盛りとなる。『もしもこの場に居合わせ、べろんべろんになるまで麦酒を呷りつつ、時代の馬鹿話に興じることができたなら』そう思わずにはいられない。

…自分の嗜好もあって、どうしても昔の日本を題材にした作品に偏るなあと思い、毛色の違うのを探し当ててきた。
『リリックス』1巻 森雅之
大判フルカラー、ショートショートというか、詩画集という趣の作品集。内容はまさに『リリックの集まり』、ちょっとおセンチで、そのくせ切れ味が鋭く、読後に不思議な印象を残す。
森雅之先生は洋酒がお好きと見えて、この作品集以外でもちらほらと出てくる。
酒にまつわるのは第3話『エスキモーズ・キッス』
「冷たいマティニ(マティーニ)にクラリと酔って、でっちあげた話」そんな前置きから始まる。北極の海、水面を通して映える月。焦がれて見ている、水底の人魚……他愛のない、短い話。ちょっと不思議で、でもたしかに、マティーニみたいに洒落た物語。


興が乗ると、酒盛りや飲酒がワンシーンとして出てくる漫画なら、自分の棚だけでもそれなりにあると気づいてきた。

『あどりぶシネ倶楽部』細野不二彦 今ではほぼ絶滅している自主制作8ミリ映画大学サークルの話。クランクアップ後の居酒屋打ち上げ、アパートの自室、仲間でありライバルでもある奴と飲む安酒。若い頃に読んで、憧れたものだった。

『冒険エレキテ島』鶴田謙二 こちらも居酒屋での飲み、ひさしぶりに会った同級生たちと。地に根を張っているかつての友人たち、浮き草のまま夢を追う自分の対比に酒が染みる。

冒険ものでも上記とは随分カラーが違う『BLACK LAGOON』広江礼威 根っからの社畜ジャパニーズビジネスマン岡島緑郎VS海賊稼業の女ガンマン『トゥーハンド』ことレヴィ、雌雄をかけた無制限ラム一気飲み合戦@極悪酒場イエローフラッグ。

もうひとつ、新しめなところから飲み合戦、『靴ずれ戦線 魔女ワーシェンカの戦争』速水螺旋人 ロシアの見習い魔女ワーシェンカ(劇中ではなざか関西弁)VS鯨飲鯨食妖精ドモヴォーイ(の特別大きい奴)。

他にも『エマ』森薫もパーティーシーンが多いよなとか、『アップルシード』士郎正宗にもデュナンとブリアレオスが高級ワインを飲んでるところがあったっけとか、印象的な『飲み』はまだまだあるけど、切りがないのでこんなところ。

最後に個人的真打ちを。
『子午線を歩く人』須藤真澄 より『今宵楽しや』
須藤真澄先生は相当な酒飲み、それも日本酒&アテの渋い飲み方もお出来になると見えて、エッセイ漫画でもちょくちょく酒や飲みの話が出てくるんだけど、この『今宵楽しや』はそのものズバリ!角打ちを主題にしているシブさ炸裂の話。グルメ漫画ですら珍しいのに、ガチファンタジー作品でのこの暴挙…じゃなくて快挙。ちなみに、出てくる女の子の名前が『真澄』なのは、作者にカブっている以上の深い理由があったり……って、これだけでピンと来たらあなたもかなりの日本酒飲み。

酒と一緒にお気に入りの漫画類を大量摂取できて大満足。
これを燃やして明日も頑張ろう。アルコールと違って、完全なるエンプティーカロリーだし。
アルコールと違った意味で、一生心に残ることもあるけど。

2013年 明けましておめでとうございます

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取り急ぎ、デジカメで初撮りした星空画像を。(クリックで拡大します)
本年もよろしくお願い申し上げます。

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