年の瀬、蒸れて汗ばむほどの雨が降る夕方。
都島での所用を終えて、中崎町駅で地下鉄を降りた。
雨に打たれながら路地に入り、目当てのお店、Guignol (ギニョール)を探す。
この界隈は、昔からの民家を洒落たカフェやギャラリーに改装しているので有名だけど、まさにそのうちの一軒という感じの小さなお店だった。
折りたたみ傘を畳み、汗をふきふき店内に入ったとたん、圧倒された。
天文や宇宙をモチーフとしたアクセサリーを販売しているそうで、青い小物が狭い店内にびっしりと飾られている。そういうものがあるのは知っていたけれど、こんなまとまった数を目の当たりにするのは初めてで、別の意味で宇宙酔いしそうになる。
訪れた目的は決まっていた。
星屑屋魔法雑貨店さまの作品、『宇宙ノ卵の標本』。
卵の殻の内側を生まれたばかりの宇宙に見立てた、少しでも手荒く扱えば簡単に壊れてしまいそうな、それでいて強い存在感を放つ作品。
明石市立天文科学館に飾ってあった同工のバリエーションを見て、自分も欲しいなあ、でも一品ものだろうし難しいだろうなあと思っていたら、今回の天体観測展のことをギリギリで知り、まさにその機会に恵まれた。
値段や在庫はもちろん、そもそも展示があるかわからないし……と不安になりつつ見渡すと、正面の棚に呆気なく飾られていた。ご褒美か。
青いリボンがかけられたニス塗りの木箱、中に収まっているのは、まごうことなき『宇宙の卵』。
殻の内側に映える深い藍色、生まれたばかりの水晶柱と時計のムーブメント、とろんとした水面の奥、宇宙そのものの台座のように、大きな歯車が顔を覗かせている。
一にも二もなく購入決定。と、すんなり行くはずが、問題は件の標本箱が二つあったこと。
今はまだ孵ったばかりでもなにせ相手は宇宙、二つも三つもあると成長した時置き場に困るので、どちらかを選ばないといけない。
こっちは水晶が透き通っていて育ちぶりが綺麗だし、病気や事故なく育ちそうだけど、ムーブメント部分がやや弱々しいのが気になると言えば気になるか。で、こっちは水晶がちょっと小降りで気泡が多い。でも、歯車の噛み合わせ的に賢い宇宙に育ってくれそうな気がする……
仔猫を譲ってもらうノリでしばし黙考する。(標本にしてあるんだからもう育たないだろうというツッコミはナシで)
二階のギャラリーと他の作品も覗かせてもらってクールダウンした後、二つの卵の面前でさらにじっくり考える。よし、こっちにしよう。
会計を済ませて、雨用に丁寧な梱包をしてもらい、店を後にした。
夕闇が近づく中、強くなってきた雨でずぶ濡れになりながら、自分は今、宇宙の卵を持って家に帰る途中なんだと考える。
それだけで妙にそわそわとした、愉しい気分になった。
そして今、『宇宙ノ卵』は涼元宅、書斎の机上にある。
グレた宇宙にならないように、大切に見守らないと。
Guignol & JAM POT 天体観測展 宇宙や天文をモチーフにしたアクセサリー、オブジェ、雑貨の展示販売イベント 12月25日(日)までなので、ご興味を持たれたならお早めに。アクセサリーは基本女性向けですが、例えば稲垣足穂あたりが好きな向きなら「おっ」と思うものが沢山ありました。