深夜2時。
どうしても書き直したいと焦れば焦るほど煮詰まっていたアイディアに、ようやく突破口が見つかる。
思考を膨らめて定着させるため、久しぶりに夜の散歩と洒落込む。
アパートを出るなり、夜気がむっと蒸し暑く、風はほとんどない。それでいて汗が噴き出すわけでもない。
肌と服と空気の継ぎ目がちょうどよくウヤムヤになっている、そんな感じ。
自分以外に人影はない。
歩道橋を渡り、最初の角でいきなり猫と出くわす。黒っぽい首輪つき、すらっとした胴体の白猫。
こちらをに気づいてもなにやら知らん顔で、低いコンクリート塀にぴったり沿ってどこかに向かおうとしている。
なんとなく、これは猫集会をやっていそうだと直感する。
15分ほど歩くと、ファミマを過ぎたいつもの駐車場で第1猫集会発見。参加4猫。
こちらの心構えがまだできていず、いきなり近くに寄ってしまったせいで、2匹車の下に潜ってしまう。でも、幹事猫らしい牛模様のしろくろと、道を隔てたところで香箱座りしている太ったふてぶてしい茶トラはまったく動じない。
せっかくなので、しばらく参加させてもらう。
★猫集会に参加するには?(自分用メモ)
・会場の隅、近すぎないところに控えめに立ち、一同にそれとなく参加の意思を伝える。
いちばん近くの猫から最低でも1.5メートルは離れること。
・カメラを出したり、話しかけたりは絶対にしない。
人語はもちろん猫語もだめ。猫集会は全員無言無為が決まりなので。
・最初はとにかく、猫の方を見ない。
あさっての方をぼーっと眺めたり、物音がしたらそちらに視線をやったりする。
新参者の猫っぽく振る舞うのがコツ。
・そのうち参加猫一同が気にしなくなるので、そうなったら猫を見てよい。
ただし、絶対に凝視しないこと。
視線が合いそうになったら目を細くするか、こちらから目を逸らすのが礼儀。
・参加が許されたと思ったら、ごくゆっくりとその場にしゃがむ。安全な場所なら座り込んでも可。その方が地面の感触が気持ちいいのでお薦め。
・あとは好きなだけ、猫たちとのまったりした時間を楽しむ。
車や自転車が来たらちゃんと退くこと。
しろくろに微妙に睨まれつつも、5分ほど参加し、満足したので、軽く挨拶してその場を辞去する。
闇に目が慣れてきたせいもあり、ようやく自分を猫っぽくできてきた気がする。
猫集会というのは不思議なもので、ひとつ見つけるとその近くで幾会場も見つかる。
200メートルほど先、民家を取り壊して更地にしたばかりらしい空き地の際で、同じような模様、同じような大きさのキジトラ二匹が、魚座を思わせる配置でのんびりしているのを発見。
今度は慎重に参加をお願いし、すんなり参加できた。
また5分、何をするでもなく、行きずりの猫たちと一緒に晩夏の闇を眺める。
そしてすぐ50メートル脇、2階建てアパートの駐輪場脇にある水色ポリバケツ前が第3会場。
ここは白猫と、さっきとはちがうキジトラの二匹が、微妙に離れてくつろいでいる。
半野良で人懐っこいのか、白猫の方が一瞬こちらに寄ってこようとしたが、猫集会中にそれは御法度と思ったのか、すぐにまた座り直した。さすがにちゃんとしている。
当然、参加させてもらう。
ここでは10分弱。アパートの蛍光灯のおかげで猫たちがよく見える。と言っても、かわいい仕草など披露してくれるはずもない。ただ、猫という概念を注いだ 容器としての猫が、そこにぽつんと置いてある感じ。でも、これはこれで心地よい。子供の頃、父の仕事場に入ってはじめて怒られなかった時のような、世界の 秘密を特別に見せてもらっているような、どこか誇らしく、懐かしい気持ち。
名残は惜しいが、バーと一緒で長居はしないのが粋であり、新参者の仁義。
また、歩き出す。
城北公園に近いところで、路地の真ん中に自転車を停めたカップルがキャハキャハと笑いながらふざけあっていた。かまわず横を通り過ぎる。
嗚呼、人間のオスメスのなんと無粋なことか。
……と、猫っぽさ半分、やっかみ半分の心で憂いてみる。歩いていると、すぐにどうでもよくなる。だんだん猫に近づいていく。
すると不思議と、懸案だったアイディアもそれなりに外郭が見えるようになってくる。すぐにでもパソコンに向かいたい気持ちになる。
まだまだ猫の境地には至らないのだなあと笑う。
明るい表通りに出て、最短距離で帰路につく。
ところが、普段なら猫などいないような、太い車道に面した道にさえ、ぽつりぽつりとソロの猫がいる。ひとりで佇み、ぼーっとしている猫もいれば、どこかにあるだろう会場に移動中のものもいる。
近づいてもみんな逃げもしないし、足を早めるわけでもない。
一年に一度ぐらい、こういうヘンな夜がある。
たいていは夜中の3時ぐらいから、早朝の5時ぐらいまでのわずかな間。あっちに数匹、こっちには一匹と間隔を開け、やわらかな道標みたいに佇んでいる。鳴 き合うわけでも、じゃれ合うわけでもない。ただただその場に座り、互いに互いを気に留めることなく、大きな瞳であさっての方向を見ている。
それぞれの集会につながりがあるはずはないけれど、あるいは猫テレパシー的なもので交信しているのでは? とも思えたりもする。それほどに無防備で、目の前のものに無頓着な猫たち。
温度や湿度のせいなのか、他になにか原因があるのかはまったくわからない。
そしてもちろん、猫たちが何を考えているのかはそれ以上にわからない。
こちら側の心当たりを言えば、いい本を読み終わったばかりでふわふわした気持ちになっているとか、思いついたアイディアを頭の中であれこれ転がしている時 には、猫も寛大というか、こちらのことを『シガラミだらけのヒトじゃないもの』と認識してくれるような気がする。
1時間ほどの散歩で、この日に会った猫たちは以下の通り。
ひとり集会 4匹(しろねこ首輪、さばっぽい2、アメリカンショートヘア首輪)
会場移動中 5匹(さばとら×2、しろねこ、きじとら、しろねこ首輪)
ペア集会 2×2匹(きじとら×2 しろねこ、きじとら)
四匹集会 1×4匹(しろくろ、ちゃとら、柄不明2)
合計 17匹(黒猫が一匹もいなかったのはちょっと不思議)
半分夢のような心持ちのまま、いつものセブンイレブンで最近お気に入りのビール、プライムタイムと玉子サンドを買って帰宅。
ちびちびと飲みつつこれを書く。
結局、猫集会ってなんなんだろう? と、今さらながらに思いながら。
どうしても書き直したいと焦れば焦るほど煮詰まっていたアイディアに、ようやく突破口が見つかる。
思考を膨らめて定着させるため、久しぶりに夜の散歩と洒落込む。
アパートを出るなり、夜気がむっと蒸し暑く、風はほとんどない。それでいて汗が噴き出すわけでもない。
肌と服と空気の継ぎ目がちょうどよくウヤムヤになっている、そんな感じ。
自分以外に人影はない。
歩道橋を渡り、最初の角でいきなり猫と出くわす。黒っぽい首輪つき、すらっとした胴体の白猫。
こちらをに気づいてもなにやら知らん顔で、低いコンクリート塀にぴったり沿ってどこかに向かおうとしている。
なんとなく、これは猫集会をやっていそうだと直感する。
15分ほど歩くと、ファミマを過ぎたいつもの駐車場で第1猫集会発見。参加4猫。
こちらの心構えがまだできていず、いきなり近くに寄ってしまったせいで、2匹車の下に潜ってしまう。でも、幹事猫らしい牛模様のしろくろと、道を隔てたところで香箱座りしている太ったふてぶてしい茶トラはまったく動じない。
せっかくなので、しばらく参加させてもらう。
★猫集会に参加するには?(自分用メモ)
・会場の隅、近すぎないところに控えめに立ち、一同にそれとなく参加の意思を伝える。
いちばん近くの猫から最低でも1.5メートルは離れること。
・カメラを出したり、話しかけたりは絶対にしない。
人語はもちろん猫語もだめ。猫集会は全員無言無為が決まりなので。
・最初はとにかく、猫の方を見ない。
あさっての方をぼーっと眺めたり、物音がしたらそちらに視線をやったりする。
新参者の猫っぽく振る舞うのがコツ。
・そのうち参加猫一同が気にしなくなるので、そうなったら猫を見てよい。
ただし、絶対に凝視しないこと。
視線が合いそうになったら目を細くするか、こちらから目を逸らすのが礼儀。
・参加が許されたと思ったら、ごくゆっくりとその場にしゃがむ。安全な場所なら座り込んでも可。その方が地面の感触が気持ちいいのでお薦め。
・あとは好きなだけ、猫たちとのまったりした時間を楽しむ。
車や自転車が来たらちゃんと退くこと。
しろくろに微妙に睨まれつつも、5分ほど参加し、満足したので、軽く挨拶してその場を辞去する。
闇に目が慣れてきたせいもあり、ようやく自分を猫っぽくできてきた気がする。
猫集会というのは不思議なもので、ひとつ見つけるとその近くで幾会場も見つかる。
200メートルほど先、民家を取り壊して更地にしたばかりらしい空き地の際で、同じような模様、同じような大きさのキジトラ二匹が、魚座を思わせる配置でのんびりしているのを発見。
今度は慎重に参加をお願いし、すんなり参加できた。
また5分、何をするでもなく、行きずりの猫たちと一緒に晩夏の闇を眺める。
そしてすぐ50メートル脇、2階建てアパートの駐輪場脇にある水色ポリバケツ前が第3会場。
ここは白猫と、さっきとはちがうキジトラの二匹が、微妙に離れてくつろいでいる。
半野良で人懐っこいのか、白猫の方が一瞬こちらに寄ってこようとしたが、猫集会中にそれは御法度と思ったのか、すぐにまた座り直した。さすがにちゃんとしている。
当然、参加させてもらう。
ここでは10分弱。アパートの蛍光灯のおかげで猫たちがよく見える。と言っても、かわいい仕草など披露してくれるはずもない。ただ、猫という概念を注いだ 容器としての猫が、そこにぽつんと置いてある感じ。でも、これはこれで心地よい。子供の頃、父の仕事場に入ってはじめて怒られなかった時のような、世界の 秘密を特別に見せてもらっているような、どこか誇らしく、懐かしい気持ち。
名残は惜しいが、バーと一緒で長居はしないのが粋であり、新参者の仁義。
また、歩き出す。
城北公園に近いところで、路地の真ん中に自転車を停めたカップルがキャハキャハと笑いながらふざけあっていた。かまわず横を通り過ぎる。
嗚呼、人間のオスメスのなんと無粋なことか。
……と、猫っぽさ半分、やっかみ半分の心で憂いてみる。歩いていると、すぐにどうでもよくなる。だんだん猫に近づいていく。
すると不思議と、懸案だったアイディアもそれなりに外郭が見えるようになってくる。すぐにでもパソコンに向かいたい気持ちになる。
まだまだ猫の境地には至らないのだなあと笑う。
明るい表通りに出て、最短距離で帰路につく。
ところが、普段なら猫などいないような、太い車道に面した道にさえ、ぽつりぽつりとソロの猫がいる。ひとりで佇み、ぼーっとしている猫もいれば、どこかにあるだろう会場に移動中のものもいる。
近づいてもみんな逃げもしないし、足を早めるわけでもない。
一年に一度ぐらい、こういうヘンな夜がある。
たいていは夜中の3時ぐらいから、早朝の5時ぐらいまでのわずかな間。あっちに数匹、こっちには一匹と間隔を開け、やわらかな道標みたいに佇んでいる。鳴 き合うわけでも、じゃれ合うわけでもない。ただただその場に座り、互いに互いを気に留めることなく、大きな瞳であさっての方向を見ている。
それぞれの集会につながりがあるはずはないけれど、あるいは猫テレパシー的なもので交信しているのでは? とも思えたりもする。それほどに無防備で、目の前のものに無頓着な猫たち。
温度や湿度のせいなのか、他になにか原因があるのかはまったくわからない。
そしてもちろん、猫たちが何を考えているのかはそれ以上にわからない。
こちら側の心当たりを言えば、いい本を読み終わったばかりでふわふわした気持ちになっているとか、思いついたアイディアを頭の中であれこれ転がしている時 には、猫も寛大というか、こちらのことを『シガラミだらけのヒトじゃないもの』と認識してくれるような気がする。
1時間ほどの散歩で、この日に会った猫たちは以下の通り。
ひとり集会 4匹(しろねこ首輪、さばっぽい2、アメリカンショートヘア首輪)
会場移動中 5匹(さばとら×2、しろねこ、きじとら、しろねこ首輪)
ペア集会 2×2匹(きじとら×2 しろねこ、きじとら)
四匹集会 1×4匹(しろくろ、ちゃとら、柄不明2)
合計 17匹(黒猫が一匹もいなかったのはちょっと不思議)
半分夢のような心持ちのまま、いつものセブンイレブンで最近お気に入りのビール、プライムタイムと玉子サンドを買って帰宅。
ちびちびと飲みつつこれを書く。
結局、猫集会ってなんなんだろう? と、今さらながらに思いながら。