2016年9月アーカイブ

大変お久しぶりの涼元です。ようやく色々と復活気味です。
シナリオとして参加しました うたわれるもの 二人の白皇 も無事発売されまして、漏れ聞こえてくる感想に戦々恐々しています。超大作のフィナーレを飾る壮大なストーリーにおいて、複雑に張り巡らせた伏線やニンゲン関係や、その他の色々なアレコレはまた落ち着いたら言える範囲でお伝えするとして。

古巣の話題で恐縮なのですが。
劇場版 planetarian ~星の人~、2016年にしてただ今上映中です。正直状況が未だ飲み込めず、あり得ない距離からレールガンを射ち込まれたような心持ちであります。
実は、映画館で購入できるパンフレットで、涼元もインタビューに答えさせてもらっています。
で、涼元がキネティックノベル/小説執筆時に使用したplanetarian世界の年表というものがありまして、映画版制作段階で参考になればとご提供したのですが、インタビューの脇にそっくりそのまま掲載していただくことになりました。のですが。
改めて読んだら誤字やらミスやら山盛りで、提供者として顔を真っ赤にしているところです。 劇場版 planetarian ~星の人~ の公式サイトで正誤表を掲載していただきましたので、パンフレットをお持ちの方はお引き合わせいただけますと幸いです。

で、ここからは蛇足気味にダラダラと。
月面港うんちゃらは本筋とは関係ない些末なこだわり(とはいえ、マレ・ネクタリス制圧作戦の辺りは独立して小説に仕立てたいなあとか思ったりもしてたので)としても、松菱と花菱なんて全置換して直したはずなのに、なんでしれっと残っているのか。地元を封印都市にされた浜松市民の皆様の怨念でしょうか。ホントすみません。

他にもタイムテーブル的に微妙に揺れているイベントもあるかと思いますが、基本それぞれの作品内で示される時点が『史実』ということでお願いします。

あと、最新の研究によるとケンタウルス座α星に惑星は存在しないらしいのですが、松、じゃなかった、花菱デパートが経営破綻していない世界線のアルファケンタウリにはフツーに惑星が存在します。鎌倉幕府の設立は1185年ではなく1192年で、大阪府堺市にあるのは大仙陵古墳ではなく仁徳天皇陵で、ニンジンに多く含まれる栄養素はカロテンではなくカロチンで、脊椎動物の祖先はハイコウイクティスでもミロクンミンギアでもなくピカイアです。そういう世界線なんです。諸々お察しください。

それではまた……って、これだけというのも愛想なしなので。
お詫びとして、planetarian絡みのヨタ話でこの辺は面白いんじゃないかなーと思うところをアンオフィシャルでひとつだけ。
以下、超絶ネタバレなので、配信版、劇場版、キネティックノベル版、その他いずれかのplanetarian本編(とできれば外伝小説)を観賞済みの方だけスクロールしてお進みください。



















★なぜプラネタリウム館のスタッフはゆめみの主電源を落としていかなかったか?

「あんなグダグダな嘘つかずに、さっさとゆめみの電源落として避難すればいいのに」
もっともな疑問です。
「電源落とせるんならそうするだろうから、何か理由があるんだろうなあ」と優しく流していただいてる方も多いと思いますが、折角ですので一講釈お付き合いください。

大前提として、ゆめみの主電源を落とすには、登録者(館長以下数名)の『生体認証』と許可が必要になります。これは通りすがりに「ポチっとな」とされないようにで、この時代の接客用のロボットとしては標準的な運用です。
『位置把握端末』による強制停止もできますが、これも送出側に認証キーが必要なので、誰でもできるわけではありません。

※メモリカードの取り外し(内部ロック解除)も登録者認証と許可が必要なのですが、例の場面でゆめみ単体でそれができたのは……っとと、これは別の話でした。

物理的な緊急停止ボタンもどこかにあるはずです。後頭部か首の後ろ(これだと現実のPepper君と同じ場所ですね)辺りになるでしょうか。イタズラ防止に押した人間が特定される仕組みがあるかもしれません。
『ロボット法』に準拠した機体同士なら、相互に停止信号を発行することができますが、これは暴走状態に陥ったと判断された機体にのみ送出される最後の手段です。
また、ゆめみが自己判断で自分の主電源を落としたり、再起動することもありえます。
いずれにせよ、主電源オフからの初期起動時には登録者による認証が必要になります。(システムクラッキング防止のためです。スリープ/サスペンドなら基本的に不要)

問題の場面では館長はじめスタッフ一同がゆめみに相対していましたので、あそこで主電源を落としてしまうことはもちろん可能でした。
ではなぜそうしなかったのか?

ゆめみ(および似たような境遇にあったごく少数)以外の『ロボット』は開戦から数日ぐらいの間に全て機能停止しています。
オーナーが自主的に主電源を落とした場合がほとんどですが、そうでない場合は『強制停止信号』を受けてのものです。これは敵側にロボットをクラッキングされるのを防ぐための措置でした。 

※他にも、「極秘裏にカスタムメイドされたロボット法無視の違法機体」なら強制停止を無視して稼働している可能性があります。要はあそこんちの方々です。

ではなぜ、ゆめみだけは強制停止を免れたのでしょう?
戦争が不可避の情勢になった頃、『ロボット法』が改正されました。
その結果、全ての民生用自律ロボットについてあるシステムアップデートが法的に義務づけられ、実行されました。

サポートセンターを通さずとも、国家機関からの一斉信号を受けたら無条件に機能停止する機能の追加。それも通常の強制停止ではなく、重要回路を故意に焼き切るように高負荷をかけ、再起動不能にするレベルで……早い話、「国が出した集団自殺命令に絶対服従する」コマンドの実装です。

単にクラッキング防止のためなら明らかに過剰措置であり、心情的、運用的な反発が起こりました。ですが、なにせ法的義務と刑事罰を伴う「国家非常時に伴う命令」です。誤魔化そうとしても、未アップデートの機体はオンラインでチェックされるので、従う他ありません。

それでも、「うちの可愛いロボットにそんな残酷なコマンドは絶対に入れさせない!」と裏でいろいろ画策したエンジニアたちも存在しました。

開戦前の段階で、ゆめみは相当古いタイプのロボットでした。
自前のAI(というには色々お茶目ですが)と記憶装置を内蔵する『半独立稼働機』で、サポートセンターに依存せずに判断し、行動することもできます。また、不慮の事態で野良ロボット化するのを防ぐため、『ゆめみのような業務支援用機』の行動範囲は登録された『職場から半径3km以内』と定められています。

半独立稼働機は整備コストがかかる上にAIの性能や拡張性が低いため、安定したネットワーク接続が保証されない極限作業用など、特殊用途のみに用いられるようになりました。
ゆめみ後の世代のロボットは、サポートセンターとの通信が飛躍的に高速化/安定化されているので、自身はAIを持たない『遠隔頭脳機』が主流になっています。

※民生用のロボットは『ロボット法』によってサポートセンターとの常時ネットワーク接続が義務づけられているので、完全独立稼働機は建前上存在しません。

遠隔頭脳機はユーザーレベルで基本ソフトを改変することは不可能なので、アップデートを防ぐ手立てはありません。
旧タイプの半独立稼働機なら、相応の技術者と設備があれば不可能ではなく……当初からゆめみの実働『データをメーカーに提供』していた花菱デパートプラネタリウム館にはそれがあったわけです。

元々ゆめみは、重要アップデートで基本的な『性格が変わって』しまうのを防ぐために『自動アップデート機能を物理メディアのみ有効にして』あり、システムアップデートや基本データベースへの情報追加を現場レベルで取捨選択できるようになっていました。それに加えて、専属のロボット技術者『三ヶ島吾朗』の手によって、オンラインアップデートを無効にした事実自体をサポートセンターに悟られないよう細工されました。ゆめみ自身が『自己診断プログラム』でその改変を異常と認識することもありませんでした。

※もちろん本来禁止されている運用であり、『既知のバグ』=過剰なおしゃべり属性がそのまま残っていて、ゆめみがそれを『機体固有の仕様』と認識しているのもこれが理由です。メーカー側は恐らく好意から見て見ぬふりをしていたのだと思われます。

ですがこれだけでは足りません。
「自殺コマンド」実装は最高特権レベルでの優先度なので、一度でもゆめみの電源を落としたり、再起動してしまえば、初期起動プロセスで自動的かつ強制的にアップデートされてしまう。アップデートを防ぐために物理的にネットワークを切断したまま起動すれば、起動チェックで機体認証ができないので再停止してしまう。(これは『ロボット法』による制限。遠隔頭脳機はネットワークが一定時間切断されると問答無用でスリープモードに入り、ネットワーク回復時にシステムのパリティーチェックと機体認証が入る仕様)

……こればかりは技術者でも防ぎようがありません。

こちらは当座、力業で対処することにしました。
つまり、絶対にゆめみの主電源を切らず、サスペンド/スリープのみで運用するわけです。
ゆめみがいかなるOSで動いていたかは定かではありませんが、Windows10アップグレードちゃんの末裔との戦いは、2049年にも連綿と続いていました。

この頃、世界はもう戦争不可避の状況に陥っていました。
『250万人目のお客さま』に精魂込めた『特別投影』を見せることで、戦争への流れに自分たちなりに抗おうとしていた……であろうプラネタリウム館のスタッフたちも、いざという時のことを考えなくてはならなくなりました。
最悪都市放棄になれば、幾万という人々が一斉避難する状況となります。自分たちにとってどんなに大切な存在であっても、対外的には『備品』でしかないゆめみはプラネタリウム館に放置していくしかありません。

ゆめみはといえば、そんな事情は知りませんし、知らされてもいません。
オンラインアップデートが無効となっているせいもあり、ゆめみの『基本データベース』に差し迫った戦争に関するデータが追加されることはありませんでした。
客入りの少なさを同僚たちと嘆きつつも、普段通りの笑顔とおしゃべりで業務にいそしんでいます。

「わたしが思いますに、そろそろ250万人目のお客さまのための花束をご用意するべきかと思うのですが」
「……まだ早いから。ゆめみちゃん、せっかちすぎるから」
「そうですか。承知しました」
「でも、250万人ってまだ全然先ですよね。鯖読んじゃったらいいのに」
「鯖読むというのは、自分の利益になるように数値を操作する不正だと理解していますが」
「不正とは限らないよ。お客さんが喜んでくれるならちょっとぐらいはいいと思うなー」
「そうなんですか」
「そこっ! ゆめみに変なこと教えない!」

そんな会話を交わしながら、『特別投影』のための台本を皆で練っていたのかもしれません。
プラネタリウムを訪れた数少ないお客さんたちも、いつも通りにゆめみに接します。

「本当に綺麗な星空でした。心が洗われるぐらい」
「今度は友達たくさん連れてくるから、それまで元気で頑張ってね」
「絶対また来るからね、ゆめみちゃん」

世界情勢への怨嗟や戦争への不安をゆめみ相手に話す人は……恐らく、ほとんどいなかったでしょう。暗雲が覆いはじめた世界で彼らが見たかったものはただ、いつも変わることのない満天の星空と、ゆめみの笑顔だったのですから。
ゆめみの『蓄積データベース』さえも、平和な時代そのままに保たれ続けていました。

戦争の陰は日に日に色濃くなっていきます。
ある日、花菱デパートと近辺の施設いくつかに軍事用の警戒アンテナ網が敷設されました。それは同じく軍事用の電源ケーブルに接続され、花菱デパートの状況に関わらず安定稼働することが可能でした。もちろん、たとえ戦時中でも電気は変わらず供給されるはずです。

機械いじりをする方ならご存じの通り、機械というものは時々は動かしてやらなければ調子を崩すし、放っておけばいつか動かなくなってしまいます。ロボットも例外ではありません。

たとえ戦争が起こっても、ゆめみを機能停止に陥らせることは決してしたくない。

そう考えたスタッフたちは、ある計画を秘密裏に実行します。
軍用の電源ケーブルにプラネタリウム館の配線を接続し、ほんの少しずつの電力を『盗電』できるようにしました。
最低限の空調とスリープモードの維持、それに、ゆめみが自分のコンディションを保つために定期的に稼働できるだけ。
見つかったら重罪……どころか、花菱デパートの母体企業の立場さえ危うくなる行為です。ですが、そうせずにはいられませんでした。

もちろん、ゆめみの全バックアップデータはどこかにぬかりなく保存されていたことでしょう。
対応する筐体を用意すれば、新品まっさらの『ほしのゆめみ』が動き出します。目の前にあるポンコツ廉価版の個体に拘る必要は全くないわけです。でも、そんなことは百も承知で、スタッフたちは不合理きわまりない、ある意味で空しい奮闘を続け、そして、打ちのめされました。

2049年8月、大戦が勃発し、彼らの都市を遺伝子細菌兵器が襲いました。

職場に詰めていた彼らがまず大急ぎで行ったのは『イエナさん』こと投影機の『防錆』処理でした。
消費電力から考えて、定期稼働させることは断念せざるを得ませんでした。
そして、ゆめみのために手を尽くします。
都市封鎖の期間は最低でも三ヶ月……検疫部隊の兵士からそう聞き出したプラネタリウム館のスタッフたちは、その晩からのゆめみの稼働設定を「年に一度、11月1日から一週間、一日15時間」と決めました。予想される最低電力供給量と充電機能のバランスを突き詰めると、それが最善の選択でした。
『空調の効いた、密閉された部屋』と、『一年に一度、一週間だけの作動設定』。
はるか未来、『屑屋』の青年が『故意なのか偶然の産物なのか、俺に知る術はない』と感じた『奇跡』のような状況は、こうやって整えられたのかもしれません。

今、プラネタリム館のスタッフたちには、もうひとつだけ為すべきことが残っています。
携帯を義務づけられたガスマスクを手に、彼らはゆめみに伝えます。

『わたしたちね、しばらくみんなで…旅行に行くことになったの』

別れの前、皆で申し合わせたはずの、『楽しい旅行』の嘘さえ、上手にゆめみに伝えられなかったスタッフたち。
『宇宙に羽ばたく人類の夢』を『お客さま』に伝える役目のロボットに、人類の愚かさや醜さなんて伝えたくはなかったのでしょう。

『私たちは、必ず戻ってくる。だれひとり欠けることなく、必ずここに戻ってくる。その時はまた、一緒に働いてくれ』

三ヶ月後か一年後か五年後か、あるいは十年後か、それはわからない。でも、いつか戦争が終わり、自分たちがプラネタリウム館に戻ってきた時。
スリープモードから目覚めさせたゆめみに、ただいつもの平和な日常通り、笑顔で迎えてほしかった。

「みなさん、お帰りなさい。楽しいご旅行でしたか?」

かけがえのない同僚のロボットをめぐって、花菱デパートプラネタリウム館のスタッフたちが最後に夢見たのは、きっとただ、それだけだったのでしょう。




もちろんこれはオフィシャルな情報ではなく、あくまで一解釈、あるいは妄想のひとつではありますが。
貴方自身のplanetarianを組み立てる上でのささやかなオプションパーツとして、心の隅に留めていただけたら幸いです。

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